ナラティヴ・カフェ Narrative Cafe

Diabetes Cafe:糖尿病診療におけるナラティヴ・アプローチ

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ものがたり塾セミナー報告:「ナラティヴ」「哲学」「倫理」から最善の医療を考える

8月 22nd, 2017 · ナラティヴ・アプローチ(病いの語り、意味)

2017年8月19〜20日の2日間のセミナーにプレゼンターとして参加しました。
今回は「ナラティヴ」「哲学」「倫理」という3つの立場から、最善の医療を考えるセミナーでした。
私は「ナラティヴ」の立場から、琉球大学地域医療部所属・臨床倫理士・倫理コンサルタントの金城隆展さんは「倫理」の立場から、また岩手大学人文社会学科・准教授 音喜多信博先生は「哲学」の立場から発表されました。
折角の企画なので、3人の発表をごくごく短くまとめてみました(不十分なまとめで申し訳ありません)。

■大切なことはみんなナラティヴが教えてくれた<ナラティヴの立場>(杉本)

今回の狙いはナラティヴ・アプローチの背景にある社会構成主義を説明し、モダニズムとポストモダニズムの関係を理解した上で、Not knowing approach(無知の姿勢)を説明することでした。ちょっと欲張りすぎて、最後に準備した「糖尿病性網膜症で失明したTさんとの出会い」という事例検討に十分時間をかけられなかったことが悔やまれました。最後までお付き合い下さった皆さん、有難うございました。

■ガイドラインを哲学する〜日本老年医学界のガイドラインとその倫理的背景(音喜多信博先生)

倫理とは、簡単に言うと
1)本人の意思尊重
2)本人にとっての益・最善:延命、苦痛の緩和、QOLの向上etc。
3)社会的視点での適切性

いのちについて どう考えるか?

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「本人の人生をより豊かにし得る限り、生命はより長く続いた方が良い」というくだりを読んで、糖尿病学会の治療目標も 「健常人と同様なQOLを保ち、健康人と変わらない寿命を全うすることにある」というだけでなく、もう少し分厚い記述があれば良いなぁと思いました。

意思決定のプロセス

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意思決定のプロセスにおいて、医師は「生物学的命(biological)」について語り、患者家族は「物語られるいのち(biographical)」について語り、合意形成をめざすという表現にこころから納得しました。

家族もケアの対象

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終末期からグリーフケアは始まっているという言葉に深く納得!

■踏み止まる倫理(金城先生)
金城さんはまず中絶論争をテーマにした『ヴェラ・ドレイク』という映画の内容を解説。「善意溢れる主人公の女性が善意から行った行為の中に悪が潜んでいる」というテーマについて解説。私たちが生きる現実はしばしば「善なる行為の中にも悪が潜み、悪なる行為の中にも善が潜んでいる」。善と悪とは簡単に線引きができない。だからこそ、善と悪の二項対立ではなく、『善』にも『悪』にもくみさずに踏み止まることが大切であると解説してくださいました。金城さんの講演はいつも通り、動画や音楽を駆使した、愛と情熱に溢れたプレゼンテーションでした。まるで、みんなを元気にする魔法使いです。

■最後に

八幡平の美しい自然の中で、楽しくて充実した2日間を過ごすことができました。
最後に雲の上に顔を出した岩手山の写真をお目にかけて、報告を終わりたいと思います。

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ナラティヴ・アプローチにとって大切な倫理的態度

8月 22nd, 2017 · ナラティヴ・アプローチ(病いの語り、意味)

「ものがたり塾2017」が終わって思うこと
〜医療界の”地の塩”になれ!〜

2017年8月19〜20日、岩手県八幡平市で下記のセミナーが開催されました。
ものがたり塾 「ナラティブ、倫理、哲学から患者への善い実践を紐解く 〜患者への最善を巡る終わりなき旅〜」

「ものがたり塾2017」が終わったあとも、FBのメッセンジャーを使って、ご一緒させていただいた松嶋 大先生、金城隆展さんと反省会のようなものをやっていました。その過程で気づいたことがあったので書いてみたいと思います。

松嶋先生は認知症の治療、在宅ケアをはじめ、地域医療の中で”善き実践”を真っ直ぐに追求している先生です。金城さんは琉球大学地域医療部に所属しながら、臨床倫理士、倫理コンサルタントとして、さまざまな分野で活躍されています。僕はというと、主に外来診察室という場で、糖尿病診療におけるナラティヴ・アプローチを探求する身であり、どちらかと言えば「個人の心理的支援」に軸足を置いた活動をしてきました。

■「倫理」と「ナラティヴ」のジョイントで気づいたこと

今回、松嶋先生の計らいによって、はじめて「倫理」と「ナラティヴ」という形式で金城さんとジョイントさせて頂きました。
そこで僕が思ったのは、ナラティヴ・アプローチの実践における「倫理的態度」の重要性でした。医療という世界は科学的根拠、臨床疫学的なデータが幅を利かせている世界です。そうした状況の中で、患者中心医療を実現するためナラティヴ・アプローチが興ってきました。しかし、現実はまだまだエビデンス=EBMという誤解が蔓延し、患者中心をめぐる議論においても、よく聴けば、異なる専門文化同士の論争であったりします。NBMの提唱者の1人であるT.Greenhalgh先生は、最近の英国におけるEBMの現状を憂いてrubbish EBM(rubbishはゴミ、屑、がらくた、つまらないものなどを意味する英語)と批判し、EBMが本来目指した姿、彼女のいうreal EBMに立ち戻る必要性を強調しているそうです。これは極めて個人的な意見ですが、サイエンスの暴走に歯止めをかける最強の武器が「倫理的態度」ではないかと思うのです。

■医療界の”地の塩” になる?

ナラティヴ・アプローチは社会構成主義を背景に医療人類学、社会学、精神医学、臨床心理学、文学などさまざまな学際的な背景を有していますが、今後サイエンス、エビデンス偏重の医療界に大きな影響を与えていくためにはナラティヴな実践を行う者が「倫理的な態度」を身につけていく必要性があるのではないかと感じました。

そこで、ナラティヴを標榜する者は途轍もなく高いハードルではありますが、「倫理的な態度」を身につけ、医療界の”地の塩” となることが求められていると言ったら少し言いすぎでしょうか?

でも、そんなことを感じた「ものがたり塾2017」でした。
松嶋先生、金城さん、大変お世話になりました。

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物語の医療の時代を創りたい

3月 2nd, 2017 · ナラティブ・ベイスメント・メディスン

■『がんが自然に治る生き方』:どうしても生きたい理由を持つ

ケリー・ターナーという人の『がんが自然に治る生き方』という本があります(2014年11月出版。プレジデント社。原著は同年4月出版)。著者は本書の中で、『がんが自然に治る生き方』9箇条というものを紹介しているのですが、この中でもっとも心に響いたのが「どうしても生きたい理由を持つ」でした。これは末期ガンになってから考えるよりも、今から考えておくべきテーマではないか!と思った訳です。今の僕が末期ガンになったら、すぐに諦めてしまいそうな気がします。

この話を糖尿病専門外来の診察の中で2人の患者さんに話しました。
1人の患者さんは10.0%→9.0→8.1%と順調に改善していたA1cが、今日初めて8.0%と足踏み状態になった方でした。
中年の独身女性で、少し生きることに疲れた様子にみえました。そこで昨夜の話をしました。

こんな感じで紹介しました。

末期ガンから生還した人たちを面接研究した人が、その著書の中で、末期ガンから生還した人の9箇条というのを書いているんですね。その中で僕は9番目にあった「どうしても生きたい理由を持つ」という項目にピンと来たんですよ。
著者がもっとも印象的であったという患者さんのエピソードを書いているです。その人は科学者なので、毎朝寝室から聞こえる小鳥の囀りに関心を抱いて、「朝の小鳥たちが、なぜ日の出のちょうど42分前からさえずり始めるのか?という理由を科学的に探求し、「木々が光合成を始めて、そこから放出される酸素に反応しているのではないか」と気づいたんです。そして「鳥が鳴き始める日が昇るまでの42分間の空気は特別に新鮮なものであり、ガンが転移した自分の右肺にとっても良いものであろう」と推論するんですよ。つまり、彼は小鳥の囀りから、早朝の空気を吸い込むことで、肺に転移したガンが治るかも知れないという物語を紡いだんですね。

末期ガンを宣告された人って、会社が倒産し、自己破産した人に当てはめることもできるでしょう。
そんな状況に立たされても、この患者さんなら決して絶望しないで、希望の物語を紡ぐことができるんではないかと思うんですよ。苦しいときに、どんな物語を紡ぐことができるか!が問われていると思うんですよね。だから、糖尿病治療がうまくいかないときこそ、どんな物語を紡ぐことができるか?それが問題ですね。

■「先生の今日のお話、マジックです!気持ちがとても軽くなりました」

彼女は診察室を出るとき、こんな風に言いました。
「今日の先生のお話、まるでマジック!」
「気持ちがとても軽くなりました!」
「次回はすごく血糖値を改善させて来たいと思います」

医師は病んでいる患者さんに対して、どんな物語を語るか?
患者さんは病い体験から、どんな物語を紡ぐことができるか?
それが問題なのだと感じた瞬間でした。

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患者中心であるとは どういうことか?No3

2月 4th, 2017 · 患者中心主義, 糖尿病療養指導

医師が考えるPatient-Centered Careと患者が希望する医療

医療専門職はその職種によって、Patient-Centered Careに対して、それぞれ異なった優先順位を持っています

しかし、それは患者が希望する医療と一致しているでしょうか?

ここでは、医療者が考えるPatient-Centered Careを、患者の希望する医療に近づけ、真のPatient-Centered Careにするためにはどうしたら良いのか、考えてみました。

■医師が考えるPatient-Centered Care

多くの医師は患者の希望を優先することよりも、「血糖改善」や「体重減少」を達成することを優先し、臨床疫学的な根拠のある治療法がPatient-Centered Medicineであると考えます。

そのために多くの医師が「カロリー制限」を指示し、一部の医師は「糖質制限」を強く求めます。しかし、ほとんどの患者は「カロリー制限」も『糖質制限』も望んでいないということに気づくことはとても重要です

患者が血糖管理よりも自分らしい生き方(慣れ親しんだ食事やライフスタイル)を望んでいるのか、あるいは自分らしい生活を犠牲にしても、とにかく早く血糖値を下げたい、体重を減らしたいと望んでいるのか?を明らかにする必要があります。

 

自分らしい食生活を優先して欲しいと願う患者に「カロリー制限食」や「糖質制限食」を求めると、医師−患者間のNegotiationは不調に終わり、アドヒアランスの向上は期待できません。

このような場合は「糖尿病にあなたの生活を従属させるのではなく、あなたらしい生き方、食べ方に糖尿病薬物療法を合わせてみませんか?」という切り口で、薬物療法によって、患者の望む食生活と血糖管理との両立を図ることを提案して欲しいと思います

 

しかし反対に、自分らしい生活を犠牲にしても「血糖コントロールの改善」や「体重減少の達成」を強く求める人たちもいます。そして、こうした人々の多くが『糖質制限食』を希望しています。

このような場合、医療者は糖質制限食に対する自分自身の評価は脇に置いて、自分自身の努力で、糖尿病を改善したいという患者の熱意を評価し、尊重しながら、糖質制限食以外の食事管理法についても紹介し、患者の自己決定に委ねます。

患者のアドヒアランスを最大に高めるためには、それぞれの食事管理法を公正に伝えながら、患者の自己決定に委ねることがもっとも重要であるし、このようなプロセスを経て、患者との良好な信頼関係を構築しておけば、たとえ糖質制限食がうまくいかなかった場合でも、引き続き指導を継続し、代替案を提示することができます。

 

また同じ糖尿病治療を優先する患者であっても、「血糖管理を優先する人」と「体重減少を優先する人」に分かれることにも留意すべきです。

体重減少を優先する患者にはインスリンよりもGLP-1アナログ製剤やSGLT2阻害薬を提案する方が、患者のアドヒアランスが高まることが期待できます。

またライフスタイルや価値観(仕事優先、美味しさと血糖管理の両立)を求める患者にはGLP-1アナログ製剤やweekly製剤、経口薬を併用したBOTなどを提案します。

 

■看護師が考えるPatient-Centered Care

看護師がしばしば遭遇する場面に「飲酒指導」が挙げられると思います。運動不足と大量飲酒が糖尿病の悪化の主たる要因であると考えられる場合、多くの医療者は医学的な物差しに基づいて、禁酒、節酒、休肝日など無理な生活改善を要求し、従うか従わないかという二者択一的な選択を迫る場面がしばしば見受けられます。

ここでも飲酒がその患者の人生に果たす役割を聴き出しながら、無理なく確実に実行できる目標を見つけることが求められます。

 

■管理栄養士が考えるPatient-Centered Care

管理栄養士は職業柄 栄養バランスや食事の質を大切にします。そして、患者が、身体が喜ぶ、健康的で美味しい食生活へシフトして欲しいと願います。しかし、食文化は生まれ育った環境を通じて、長い年月をかけて形成されるもので、なかなか一朝一夕に変えることは容易ではありません。

 

私はいつも患者さんに対して、“美味しさにこだわった食生活を送ることの大切さ“を訴えていますが、中には「食べ物の味にはこだわらない、お腹がいっぱいになればなんでも良い」という人もいて、人が食事に求めるものはひとり一人異なるということを痛感しています

 

効果的な食事指導を行うためには、患者が食事に求めるものが何か?に着目しながら、その方の「食文化」を理解することが求められます。そういう意味からも「好物」を聴き出すことは患者の食文化を理解するのに役立ちます。
しかし、やはり最後は「食育的な要素」を取り入れていくことが必要であると痛感しています。

 

■結語

文末の表のA、Bは【より病気中心】、C、Dは【より患者中心】となっています(クリックで拡大)。

医療従事者はその専門性故に、血糖管理、体重管理、栄養バランスといった医療優先の指導に傾きがちです。

しかし、患者の文化的な背景や価値観などに配慮することで、患者との対話が促進され、お互いがお互いの考え方に影響を受け合う治療的関係を構築し、医療者にとっても患者にとっても最良の結果を生み出すことが可能となると信じたいと思います。

結局、患者中心医療とは、

医療者が「患者が望む医療」を聴き出し、それを尊重し、医学的な観点と摺り合わせ、患者との合意形成をめざす医療である

と言い換えることができます。

合意形成の過程で「こうあるべきである」といった医療専門職の理想が通らない場合もあると思いますが、患者のアドヒアランスが最大となるような提案をしていくことをめざすべきではないかと思います。

医療者が考えるPatient-Centered Care.001 クリックで拡大します

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患者中心であるとは どういうことか?No2

1月 29th, 2017 · 患者中心主義, 糖尿病療養指導

【連載2回目】Patient-Centeredで何を優先するのか?

第1回目でPatient-Centeredをどのように定義づけるか?が患者中心の療養指導を議論する上でとても重要であり、また患者とのコミュニケーションの質を高め、お互いがお互いの考えに影響し合う治療的医療者−患者関係を構築することが、患者中心のケアをもたらす上で重要であることを書きました。

今回はさまざまな意味付けをされているPatient-Centeredという言葉を分類してみました。この分類は、患者のパフォーマンスを最大限に高めることで、アウトカムを改善していくためには、何を優先するべきか?がPatient-Centered Diabetes Careであるという立場からリストアップしたものですが、さまざまな観点が考えられます。

医療従事者は自分が考えるPatient-Centeredな物差しが、患者の希望に沿うものかどうかを確認することが求められるのではないか?と思います。

A.Medicine-Centered Care
正確な患者の病態診断に基づいて治療を行うことが、患者の希望に合致すると考えられるケース。Medicine-Centered Careを、患者が何を優先するかによって、さらに4つに細分してみました。
A-1:Priority to Glycemic Control (血糖改善効果を優先する)
A-2:Priority to Weight Reduction(体重減少効果を優先する)
A-3:Priority to CVD Risk Reduction (動脈硬化リスク低減効果を優先する)
A-4:More flexible、More easy to practice(より柔軟で実行しやすいことを優先する)

B.Evidence-Centered Care
エビデンスを最優先することが、患者の希望に合致すると考えられるケース。これは糖質制限食の実践者などに多いですね。

C.Life Style-Centered Care
患者の嗜好、ライフスタイルなど患者の文化的な背景をもっとも優先することが、患者の希望に合致すると考えられるケース。
D.Value-Centered Care
患者の価値観をもっとも優先することが、患者の希望に合致すると考えられるケース。

D-1:食のQOLを重視する文化(美味しさ、満腹感)
D-2:美味しさよりも痩せることを優先する文化
D-3:何よりも血糖値が上がらないことを優先する文化

D-4:健康よりも仕事を優先したいという文化

■結びの言葉

以上、Patient-Centeredという言葉に込められた様々な意味をリストアップしてみましたが、まだ他にもあったらコメント下さい。医療専門職はみんな患者中心医療をめざしていながらも、優先すべきものが異なるために、医療者自身が対立したり、また医療者の思いが患者に理解されずにすれ違ってしまっていることが分かります。

つまり、私たち医療専門職は自らが考えるPatient-Centered Careで優先したいものが、患者の求めているものと一致するかどうか?を慎重に見極め、一致しなければ、患者の考えを尊重しながら、Negotiationを図ることが重要であることが分かります。

次回は、医療者が考えるPatient-Centered Careと患者の希望との乖離を埋めるためのヒントについて解説したいと思います。

Feelings and Expressions

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