ナラティヴ・カフェ Narrative Cafe

Diabetes Cafe:糖尿病診療におけるナラティヴ・アプローチ

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糖尿病栄養療法の新しい視座:versus から and へ

6月 9th, 2012 · 1 Comment · 糖尿病食事療法

雨の週末ですが、いかがお過ごしでしょうか?

2012年7月8日(日)第9回西東京病態栄養研修会が開催され、表題のタイトルでお話しすることになりました。まだ具体的な内容については詰めていないのですが事前に抄録の提出を求められたので、以下の内容を提出しました。現在、糖尿病栄養療法にはさまざまな考え方がありますが、まずはこのレベルを実現していくことがもっとも現実的かと考えています。

【プロフィール】

医療人類学と臨床糖尿病学を探求する内科医師。1979年東京医科大学を卒業後、(現)国立東京医療センター内科勤務を経て、1986年順天堂大学内科へ入局。同大学内科講師を経て、伊豆の地域医療に従事。いったんは田舎の良き臨床医を志すも、2004年Trisha Greenhalgh教授の講演(タイトル:Narrative Approach to Clinical Consultation)との運命的な出会いによって、ナラティヴ・アプローチを探求する道を選択。現在、週5日の糖尿病専門外来を担当しながら、生物心理社会モデルに基づく診療実践をめざしている。同時に病者の語りの傾聴を通じて、糖尿病者のillnessを探求しながら、異文化(病者の生きる世界)理解の道を探求している。

【講演抄録】

■「食品交換表versusカーボカウント」から「食品交換表andカーボカウント」へ

ここ数年、しばしば「食品交換表 vs カーボカウント」という図式の討論やディベートが紙面を賑わせている。確かに、それぞれに一長一短があることは事実である。しかし、だからといって、which is better? という二者択一を迫る二元論的発想から生まれる不毛な論争を続けていても、新しい栄養療法の意味付けは生まれてこない。そもそもこれら2つのアプローチはどちらも必要なものである。そろそろ二者択一的論争に終止符を打って、 2つの栄養療法が適した病態、対象について議論すべき時代を迎えている。Which is better for you? という問いこそが、患者が求めている問いではないかと考える。すなわち、「食品交換表 versus カーボカウント」から「食品交換表andカーボカウント」の時代を創っていかなければいけないと思う。

時代の変化に柔軟に対応できる新しい視座が求められている

食品交換表が誕生してから半世紀を経た現在、日本人の食文化は大きく変貌し、食に対する価値観は多様化した。また主体的な血糖管理を求める人々の中には、安易な薬物療法に対して警戒感や拒否感を抱く人々も少なくない。我が国で糖質を1日100g以下に制限して、薬物療法に頼らずに血糖管理をめざす糖質制限食と呼ばれる食事法が生まれ、多くの人々に支持されているという現象にもこうした時代の変化を見ることができる。かれらの中には血糖管理に対して、医療従事者以上の完璧さを求める人々もいる。我々は彼らの行動を「過度の医療化」「健康至上主義」と揶揄することができるだろうか?これからの糖尿病医療はこのような糖尿病患者の意識の多様化にも柔軟に適応できる新しい視座が求められているように思われる。つまり、栄養療法の優劣を論じ合う以前の問題について、議論が必要な時代を迎えている。

■「食品交換表 vs カーボカウント」という対立は、実は医療者の患者に対するスタンスの違いから生まれている

食品交換表がすべての患者でうまく機能するのであれば、このような議論は生まれないはずである。食品交換表に固執する医療者の中には、患者の血糖コントロールが改善しない理由を、患者側の責任に転嫁している人(「患者のノンコンプライアンス」に起因するという考え)が少なくない。それに対して、カーボカウントを推す医療者の多くは、患者の血糖コントロールが改善しない理由を、自分たちの指導方法の欠陥に求めている人が多い。カーボカウント推進派にとって、食品交換表指導の最大の問題は、糖尿病の病態(インスリン分泌低下優位、インスリン抵抗性優位)の相違や肥満の有無に関係なく、「エネルギー制限」や「栄養バランス」の遵守を求める、やや硬直した指導が展開されているという現実である。その結果、多くの患者が「医療従事者は患者の価値観や個人の嗜好、あるいは患者が置かれた厳しい現実生活を十分に考慮せずにカロリーを守ることばかりを求める」という誤解を抱いている。栄養指導の現場はもっと心理社会モデルに基づく、患者中心の実践を取り入れるべきであろう。

私の希望は、すべての2型糖尿病患者がPFCバランスを尊重したカーボカウント指導を受けられる時代を創ること

現在、私はすべての2型糖尿病患者にカーボカウント指導を行っており、確かな手応えを感じている。大切なポイントはカーボカウント指導を行う前に、日本の食文化を考慮した日本版Healthy Food Choiceの指導をしっかりと行うこと。次に非インスリン療法患者に対しても可能な限りSMBGを導入し、食後血糖値に応じて対エネルギー比50〜55%の基礎カーボ指導を厳格に行うことである。50〜55%の基礎カーボ指導を徹底すれば、PFCバランスを遵守した栄養療法であっても血糖管理は可能であることを強調したい。同時に患者の血糖パターン分析から薬剤最適化を図るStructured testingの実際についても紹介したい。

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One Comment so far ↓

  • nishikawa

    杉本先生、ご無沙汰しております。大阪の管理栄養士です。
    先生のブログに拍手です。両者は決してお互いを否定しあう物ではなく、両方が必要な物です。
    糖尿病の病態を示す図の、インスリン分泌不全=糖質制限(管理)、インスリン抵抗性=エネルギー制限にあてはめて見ていただくと非常に
    よくわかります。
    血糖値、HbA1cだけではなく、その方のインスリン分泌を見て、栄養指導の方法を決めていく、これからはそういう時代と考えています。
    病態栄養学会後にあった、どちらが勝利ではないかと思います。
    当日、参加させていただきたい!!とは思いますが、なにせ遠い!!
    ぜひ関西でもお願いします。

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