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Diabetes Cafe:糖尿病診療におけるナラティヴ・アプローチ

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治療の個別化について:1年間かけて21kg減量したBMI 47の女性の場合

5月 2nd, 2012 · 1 Comment · 糖尿病療養指導

明日から糖尿病学会の準備を開始すると決めて、『治療の個別化』についての話題についてご紹介したいと思います(twitter風に小文に分けて書いてみます)。

■出会い

ちょうど1年前、他院からの紹介で、僕はA1c 10.8%、BMI 47の女性に出会った。前医のインスリン総投与量は140単位を超えていた。大変真面目な責任感の強い先生で、血糖コントロールを改善するため、少しずつ増量を繰り返しているうちに140単位を超えたのだと思う。しかし、この5年間で体重は40kg増加していた!

彼女は糖尿病以外にも2つの難病を抱え、ステロイド投与を受け、強い慢性疼痛とも闘っていた。僕には彼女の糖尿病治療はとても困難なミッションに思えた。

■まず、すべてのボーラスインスリンを中止し、高用量メトフォルミンを併用

まず最初に行った決断はすべてのボーラスインスリンを中止し、ランタス40単位だけに減量し、高用量メトフォルミン(MET:当初1500mg/日、その後2250mg/日へすぐに増量)を併用したことだ。

この結果、食前血糖値は劇的に改善し、6週間で7kgの減量に成功(つまりボーラスインスリンを中止するだけで体重が減少した)。さらに夕食前にボーラス10単位を加え、A1cを何とか 8.5%まで改善した。しかし、ここから足踏み状態に。

■次にビクトーザにチャレンジ

そこでビクトーザ+MET9錠へ果敢に挑戦した(このときのA1c8.8%)。しかしビクトーザを28週間投与してもA1cは9.4%に留まり、無効と判断、ビクトーザを断念した。彼女も頑張っているがBOTではこれ以上の改善は難しいと判断した。

■再び強化インスリン療法へ戻る

そこで次に、再び前医と同じ強化インスリン療法へ戻ることを決断した。但し、ランタス42単位、Q10-10-10で固定。高度のインスリン抵抗性のためインスリンの投与量対効果比は低いのでインスリン量は固定して、種々の内服薬を追加していく戦略をとった

■食事記録と7point 3日間血糖測定(構造化SMBG)で治療の個別化を図った

彼女の凄いところは強化インスリン療法を継続しながら3ヶ月間で5kg減量したこと。一人では通院が困難な彼女はいつも娘さんと来院する。娘さんは母親のことなら何でも把握していて、まるで優秀な秘書官のような役回りだ。僕とこの母娘は来院のたびに、3日間7ポイントのSMBG記録と食事記録を見ながら、血糖パターン分析と薬剤最適化プログラムを用いながら、薬剤の最適化を図ってきた。

印象的なエピソードをひとつ紹介したい。毎回、僕は彼女のSMBGデータをPCでグラフ化して見せる。ランタス40単位+アマリール1mg+MET6Tの3日間血糖応答とランタスを4単位増量し、アピドラ0-0-10を追加し、MET9Tへ増量した後の血糖応答を重ねて見せたときのことだ。彼女は「へ〜、凄い!これが先生の作品なんですね〜」と言ったのだ。このとき、僕は糖尿病治療とはまさに医師と患者との共同作業であることを実感した。

その間、アクトスの浮腫、セイブルの下痢・腹痛による撤退に耐え、現在の処方に辿り着いた。MET9T+ジャヌビア50mg、さらにα-GIを加えることで、ついにA1c7.2%、21kgの減量を達成した。「さらに10kg、可能なら20kg減量し、あなたがダイエット本を出版し、その印税で美味しいものを食べましょう!」と他愛ない冗談を言い合って盛り上がった。

■最後に

ここまでの彼女の治療の経過はまさに治療の個別化をめぐる試行錯誤でした。高度のインスリン抵抗性とインスリン分泌障害を合併した患者はとても治療が困難で、定型的な治療は存在しません。患者の協力を得ながら、治療の個別化を図るほかなく、現在の処方へ辿り着きました。

彼女はアクトスの浮腫、セイブルの下痢、ジャヌビア無効などの体験に良く耐え、僕の提案する治療に主体的に取り組んでくれました。次の目標はこれまで達成したことのないA1c6%台に突入することです。糖尿病治療は「患者と治療者が協力し合って取り組む、きわめてinteractive な共同作業である」と実感させてくれた経験でした。

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