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2型DM治療に関する2012年度ADA/EASDの意見表明が意味するもの

5月 2nd, 2012 · 1 Comment · 患者中心主義

ゴールデン・ウィークも半分終わって、2日間の平常勤務ですね。長期休暇をとっている方が羨ましいです。

今年も4年ぶりに2型糖尿病治療に関するADA/EASDのPosition Statementが発表されました。

Management of hyperglycemia in type2 diabetes: a patient-centered approach. Position statement of the American Diabetes Association (ADA) and the European Association for the study of Diabetes(EASD). Diabetologia, 24 February 2012.

 

 

今回はこれを読んだ感想を綴った昨日のツイートを中心にご紹介したいと思います。

2012年のADA/EASDの意見表明にはある種の衝撃を受けた。2008年度までの意見表明と比べ、劇的な方針転換だ。その変化のインパクトは、米国大統領が共和党から民主党に変わるよりも、英国首相が保守党から労働党に変わるよりも大きい。それは米国初の黒人大統領の誕生に匹敵する程だ。

これまでのADA/EASD意見表明にはエビデンスに基づく明確な重み付け(序列)が表明されていた。例えば、アクトスやGLP-1アナログはメトフォルミンやインスリンに比べて、科学的信頼度が劣るという明確な序列がそこには在った。治療の優先順位にもエビデンスの質による序列化が存在した。

しかし2012年度の表明は序列化を放棄した。その理由として彼らは治療の個別化を重視する姿勢を強調している。患者の必要性、好み、認容性などの文脈を考慮することが治療の要であるとし、「我々の勧告は過去のガイドラインと比べ、規範性が少なく、アルゴリズム的でもない」と明記している。

これは明らかにACCORD試験の教訓の影響を強く受けていると感じる。この研究で厳格治療群において標準治療群よりも心血管死が増加した意味は明らかにされていないが、これまでの厳格血糖管理一辺倒の考え方に猛省を促し、患者の病態や背景に応じて、治療を個別化することが重要であるという教訓を生んだ

今回の表明ではこの目標を達成するため、患者中心主義治療決定共有アプローチの有効性が冒頭で強調されている。薬剤の選択基準もあくまで患者と薬剤の特徴に基づいて個別化するべきであるという論理が優先されている。かつてのEBM重視とは180度の方針転換だ。驚きである!

僕は今回の意見表明の骨子がどのような議論のプロセスを経て決定されたのか?その議論の詳細が公開されることを期待する。その議論のプロセスの中にこそ、2型DM治療のエッセンスが存在すると思う。あなたも、このような大きなパラダイムシフトが誕生した舞台裏を知りたいと思いませんか?

例えば、血糖管理に対するアプローチを説明したFig1.は厳格な治療を選択するか、緩い管理を選択するか?の判断基準を分かりやすく説明している。

 

 

 

 

患者の治療に対する態度、治療に対する意欲:高ければ厳格、低ければ緩やかに

低血糖その他の副作用のリスク:リスクが大きければ緩く、低ければ厳格にする

罹病期間:診断されたばかりなら厳格に、長ければ緩やかに。

予想される余命:長ければ厳格、短ければ緩やかに。

重大な併存疾患の有無:少なければ厳格、多ければ緩やかに。

すでに診断された血管合併症の有無:なければ厳格に、あれば緩やかに。

社会的リソースや支援の有無:恵まれていれば厳格に、乏しければ緩やかに。

こう考えると、

その患者のA1c目標値をどこに設定するか?

その患者にどのような薬剤を選択し、どのようなインスリンレジュメを選択するか?は単に医学的な側面だけでは決められないことが分かります。

患者を社会的な存在と考えて、患者の好みや価値観、認容性を慎重に確認し、薬物療法を検討し、患者と一緒に決定していく。これが彼らが主張する患者中心アプローチなのだと分かります。

次に、今回示された治療アルゴリズムを示します。

その特徴はまったく序列化されていないこと、四角の中に示された薬剤特性と患者の病態を勘案して、個別化して決めていくことが謳われています。これを見て、ADA/EASDのアルゴリズムが日本糖尿病学会のガイドライン(治療の手引き)に近づいたという意見を読みましたが、僕は少し違うと思います。その背景に在るのは徹底した治療の個別化思想です。アルゴリズムで序列化を示すことで、治療の個別化が損なわれたという反省が底流にあるような気がしてなりません。

 

皆さんはどう思われますか?

 

 

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One Comment so far ↓

  • マスター杉本

    数年前まで、BOT vs 二相性インスリン療法とか、二相性インスリン vs 強化インスリン療法 といったインスリンレジュメの優劣を比較する臨床試験が行われていました。
    その結果はまちまちで、PreMix製剤を推す製薬会社がスポンサーになるとPreMixの方が優る結果となり、持効型インスリンを推す製薬会社がスポンサーになると、BOTが優る結果となっているように僕には思われました。

    今回のstatementを読むと、インスリンレジュメを比較する前に、患者の認容性、価値観、好みを慎重に検討し、どのようなインスリンレジュメを選択するのか、その決定を患者と共有する姿勢をとることが大切なのだとあらためて感じます。それが患者の意欲やアドヒアランスを高め、アウトカムに繋がるのだろうと思います。

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