ナラティヴ・カフェ Narrative Cafe

Diabetes Cafe:糖尿病診療におけるナラティヴ・アプローチ

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結果にコミットしてくれる患者さんを育てる

10月 10th, 2017 · 糖尿病療養指導

今日は、処方変更の結果を、医師と一緒に心配してくれる患者さん達の話題です。

医学的な事項を患者さんが理解できる言葉で説明して、患者さんに自己決定してもらうことを『インフォームド・チョイス』と言います。詳しくはスライド(クリックで拡大)を参照していただきたいと思いますが、「医師が『患者』を管理する」と考える伝統的な診療スタイルではなく、「患者さんが『糖尿病』を管理する」と考えます。従って、患者は医師に従う存在ではなく、医師の協力のもと、最終的には自分自身で決定する存在であると考えます。こうした関係では、医師には患者が自己決定できるようになるまで、分かりやすく説明する義務が生じます。

そして、インフォームド・チョイスを徹底して、決定共有を推進する外来では、患者さんが「結果」にコミットし、医師と一緒に心配してくれるようになります。

メトフォルミン(商品名メトグルコ)は2型糖尿病治療の中核薬剤です。250mg錠=9円90銭、500mg錠=16円70銭と安価な薬ですが、多くのエビデンスを持ち、世界中の糖尿病医からもっとも信頼・尊敬されている薬剤のひとつです。メトフォルミンは投与量に依存して血糖降下作用を表しますが、腎排泄性薬剤なので、腎機能に応じて減量しなければなりません。従って、糖尿病医が毎日経験していることは「腎障害のある患者さんのメトグルコ投与量の調整」です。

例えば、A1c>9%の患者さんのメトグルコを漸次増量し、A1cを改善させることに成功すると、その後 腎機能が悪化してくることがあるし、反対にeGFR<50となって、メトグルコ500mg/日へ減量すると、メトグルコ著効例(responder)の患者さんの場合、一気にA1cが上昇してくる場合があります。
このように、メトグルコ投与量と連動する「A1c値」と「血清クレアチニン(eGFR)」は糖尿病医を悩ませる、もっともありふれた問題で、診察の際、いつもA1c値とeGFR値という2つの検査値を眺めながら溜息をつくことになります。
しかし、僕の外来では「腎機能とメトグルコの関係」を詳細に説明し、理解してもらう努力をしています。そうすると、その説明を理解できる患者さんは、メトグルコ投与量変更後の結果について、医師と一緒に悩み、心配してくれるのです。
例えば 腎保護のためにメトグルコを減量した患者さんの場合、次の診察時、患者さんの方から「前回、メトグルコを減らしていただきましたが、今日の私のA1c値は大丈夫でしょうか?」と尋ねてくれます。
また「血糖コントロールが悪化したため、やむを得ず、メトグルコを増量した場合も、「先生、前回メトグルコを増量しましたが、今日の私の腎機能は大丈夫でしょうか?」と尋ねてくれます。そして「腎機能、悪化していませんよ」と答えると「あぁ〜、良かった!」と胸を撫で下ろして下さいます。
このように、患者さん自身が医師と一緒になって、処方変更の結果にコミットしてくれる訳です。

僕は処方変更の結果にコミットしてくれる、こうした患者さんを本当に頼もしいと感じています。

スライドを参照して下さい(クリックで拡大します)。

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告知:シンポジウム企画予告 「食べることの意味」を多元的に考える

10月 3rd, 2017 · お知らせ, 医療人類学(病い体験、illness)

「健康的に食べる」ってどういうこと?

〜「食べることの意味」を多元的に考える〜

2018年に「健康的に食べる」ということを多視的、多元的にみんなで考えるシンポジウムを開催したいなぁという願望を抱いています。今日は現時点での素案を以下にお知らせしたいと思います。興味のある方、是非ご参加下さい。また以下の募集内容を読んでいただき、パネリストの自薦、他薦を私までご連絡下さい。
■パネリスト募集

以下のような発表をして下さる方を募集します。
1.他人からは少し変わっているねと言われても「やめられない私の食事管理術」を紹介して下さる方。
2.他人からは理解されなくても構わない。ご自身が苦労しながらようやく手に入れた食事スタイルをお持ちであるという方。
3「健康的に食べられない」「普通に食べられない」という泥沼から、自力で這い上がって、今 自分らしい食べ方を見つけた、あるいは見つけつつあるという方。
■主旨:「健康的に食べること」の意味を掘り下げる
私たちが普段普通に使っている「健康的に食べる」ということは一体どういう行為を指すのか? 立ち止まって、みんなで考えるシンポジウムにしたいと思います。当事者の視点を、生物医学、栄養学、心理学、人類学などさまざまな観点から議論してみたいと思います。
■プログラム案
1.パネリスト発表(2〜3名の当事者を予定)
糖尿病、摂食障害など「食べる」という課題と向き合ってこられた当事者の皆さん。
2.パネルディスカッション
パネリストの発表について、医師、管理栄養士、臨床心理士、文化人類学者など、それぞれの専門家からコメントを頂きます。
3.特別講演
文化人類学者による特別講演を予定しています。

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リアルワールドにおける糖尿病薬物療法(9/4)

9月 3rd, 2017 · お知らせ

9月4日、東京ドームホテルで予定されている講演会の告知です。

ある糖尿病薬がリアルワールドで効くかどうか?は「医師ー患者関係」「患者への説明モデル」「患者の物語に基づいてエビデンスを活用しているかどうか?」が重要ではないかと思います。

処方に賦与する『物語』が薬効を決める!?

処方をするときに、その患者さんの状況、気持ちを踏まえ、処方にどんな物語を賦与するか!で、その薬と患者さんとの関係性が決まります。そして、それが薬効に繋がるのではないかと思います。そして、これこそ RCTとリアルワールドとの違いではないかと考えています。

SGLT2阻害薬は「減量」「血糖改善」「心血管イベント抑止」といった様々な側面をもった薬剤です。従って、それぞれの患者の病態によって、SGLT2阻害薬の果たす役割は異なります。それに合わせて、どのような「物語」を賦与したら良いのかについてお話ししたいと思います。

もちろん『薬効』は医師−患者関係によっても大きく異なる訳ですので、それについても簡単に触れたいと思います。

その上で、服薬コンプライアンスを改善するために必要なことは何か?について、皆さんと考えてみたいと思います。
そして、最後にSGLT2阻害薬の活用例を、患者さんへの説明の仕方とともに解説してみたいと思います。

講演会タイトル

HCCQの結果.001

悪循環.001

好循環が始まる.001

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ものがたり塾セミナー報告:「ナラティヴ」「哲学」「倫理」から最善の医療を考える

8月 22nd, 2017 · ナラティヴ・アプローチ(病いの語り、意味)

2017年8月19〜20日の2日間のセミナーにプレゼンターとして参加しました。
今回は「ナラティヴ」「哲学」「倫理」という3つの立場から、最善の医療を考えるセミナーでした。
私は「ナラティヴ」の立場から、琉球大学地域医療部所属・臨床倫理士・倫理コンサルタントの金城隆展さんは「倫理」の立場から、また岩手大学人文社会学科・准教授 音喜多信博先生は「哲学」の立場から発表されました。
折角の企画なので、3人の発表をごくごく短くまとめてみました(不十分なまとめで申し訳ありません)。

■大切なことはみんなナラティヴが教えてくれた<ナラティヴの立場>(杉本)

今回の狙いはナラティヴ・アプローチの背景にある社会構成主義を説明し、モダニズムとポストモダニズムの関係を理解した上で、Not knowing approach(無知の姿勢)を説明することでした。ちょっと欲張りすぎて、最後に準備した「糖尿病性網膜症で失明したTさんとの出会い」という事例検討に十分時間をかけられなかったことが悔やまれました。最後までお付き合い下さった皆さん、有難うございました。

■ガイドラインを哲学する〜日本老年医学界のガイドラインとその倫理的背景(音喜多信博先生)

倫理とは、簡単に言うと
1)本人の意思尊重
2)本人にとっての益・最善:延命、苦痛の緩和、QOLの向上etc。
3)社会的視点での適切性

いのちについて どう考えるか?

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「本人の人生をより豊かにし得る限り、生命はより長く続いた方が良い」というくだりを読んで、糖尿病学会の治療目標も 「健常人と同様なQOLを保ち、健康人と変わらない寿命を全うすることにある」というだけでなく、もう少し分厚い記述があれば良いなぁと思いました。

意思決定のプロセス

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意思決定のプロセスにおいて、医師は「生物学的命(biological)」について語り、患者家族は「物語られるいのち(biographical)」について語り、合意形成をめざすという表現にこころから納得しました。

家族もケアの対象

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終末期からグリーフケアは始まっているという言葉に深く納得!

■踏み止まる倫理(金城先生)
金城さんはまず中絶論争をテーマにした『ヴェラ・ドレイク』という映画の内容を解説。「善意溢れる主人公の女性が善意から行った行為の中に悪が潜んでいる」というテーマについて解説。私たちが生きる現実はしばしば「善なる行為の中にも悪が潜み、悪なる行為の中にも善が潜んでいる」。善と悪とは簡単に線引きができない。だからこそ、善と悪の二項対立ではなく、『善』にも『悪』にもくみさずに踏み止まることが大切であると解説してくださいました。金城さんの講演はいつも通り、動画や音楽を駆使した、愛と情熱に溢れたプレゼンテーションでした。まるで、みんなを元気にする魔法使いです。

■最後に

八幡平の美しい自然の中で、楽しくて充実した2日間を過ごすことができました。
最後に雲の上に顔を出した岩手山の写真をお目にかけて、報告を終わりたいと思います。

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ナラティヴ・アプローチにとって大切な倫理的態度

8月 22nd, 2017 · ナラティヴ・アプローチ(病いの語り、意味)

「ものがたり塾2017」が終わって思うこと
〜医療界の”地の塩”になれ!〜

2017年8月19〜20日、岩手県八幡平市で下記のセミナーが開催されました。
ものがたり塾 「ナラティブ、倫理、哲学から患者への善い実践を紐解く 〜患者への最善を巡る終わりなき旅〜」

「ものがたり塾2017」が終わったあとも、FBのメッセンジャーを使って、ご一緒させていただいた松嶋 大先生、金城隆展さんと反省会のようなものをやっていました。その過程で気づいたことがあったので書いてみたいと思います。

松嶋先生は認知症の治療、在宅ケアをはじめ、地域医療の中で”善き実践”を真っ直ぐに追求している先生です。金城さんは琉球大学地域医療部に所属しながら、臨床倫理士、倫理コンサルタントとして、さまざまな分野で活躍されています。僕はというと、主に外来診察室という場で、糖尿病診療におけるナラティヴ・アプローチを探求する身であり、どちらかと言えば「個人の心理的支援」に軸足を置いた活動をしてきました。

■「倫理」と「ナラティヴ」のジョイントで気づいたこと

今回、松嶋先生の計らいによって、はじめて「倫理」と「ナラティヴ」という形式で金城さんとジョイントさせて頂きました。
そこで僕が思ったのは、ナラティヴ・アプローチの実践における「倫理的態度」の重要性でした。医療という世界は科学的根拠、臨床疫学的なデータが幅を利かせている世界です。そうした状況の中で、患者中心医療を実現するためナラティヴ・アプローチが興ってきました。しかし、現実はまだまだエビデンス=EBMという誤解が蔓延し、患者中心をめぐる議論においても、よく聴けば、異なる専門文化同士の論争であったりします。NBMの提唱者の1人であるT.Greenhalgh先生は、最近の英国におけるEBMの現状を憂いてrubbish EBM(rubbishはゴミ、屑、がらくた、つまらないものなどを意味する英語)と批判し、EBMが本来目指した姿、彼女のいうreal EBMに立ち戻る必要性を強調しているそうです。これは極めて個人的な意見ですが、サイエンスの暴走に歯止めをかける最強の武器が「倫理的態度」ではないかと思うのです。

■医療界の”地の塩” になる?

ナラティヴ・アプローチは社会構成主義を背景に医療人類学、社会学、精神医学、臨床心理学、文学などさまざまな学際的な背景を有していますが、今後サイエンス、エビデンス偏重の医療界に大きな影響を与えていくためにはナラティヴな実践を行う者が「倫理的な態度」を身につけていく必要性があるのではないかと感じました。

そこで、ナラティヴを標榜する者は途轍もなく高いハードルではありますが、「倫理的な態度」を身につけ、医療界の”地の塩” となることが求められていると言ったら少し言いすぎでしょうか?

でも、そんなことを感じた「ものがたり塾2017」でした。
松嶋先生、金城さん、大変お世話になりました。

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