ナラティヴ・カフェ Narrative Cafe

Diabetes Cafe:糖尿病診療におけるナラティヴ・アプローチ

ナラティヴ・カフェ Narrative Cafe header image 1

「自分が飲むお薬を自分で決めることで、お薬が効果を発揮するということがあるんですか?」

1月 22nd, 2017 · 患者中心主義, 糖尿病療養指導

患者さんの『自己決定』を尊重する
〜薬嫌いな女性への決定共有アプローチの一例〜

ヘモグロビンA1c 7.0%が8ヶ月間続いているけれど、薬を希望しない患者さんとの対話です。実際の症例の意味が損なわれない程度に、事実にフィクションを加えています。この対話を読んでいただくことで、患者さんが自分で決定すること(『自己決定』)の重要性をご理解いただけると思います。前回の診察の際、僕はその患者さんに「ご自分の糖尿病を少しでも実感として理解してもらうために自己血糖測定の導入を勧めました。その後、彼女は自己血糖測定器を自費購入し、血糖測定の結果を持参して、僕の外来を受診されました。この日のヘモグロビンA1c は6.9%でした。

以下、Dr = 私、Pt = 患者さんです。
Dr「この2ヶ月間の生活について教えて下さい」
Pt「食事には注意していましたが、寒いので運動が全然できませんでした」
Dr「血糖測定はしてみましたか?」
Pt「はい。食後血糖値が200mg/dLを大きく超えていました」
Dr「確かに食後血糖値200mg/dL以上が多いですが、どう思われましたか?」
 「特に3日目の夕食後血糖値は食前血糖値に比べて、100mg/dL以上跳ね上がっていますね」
Pt「え〜、そのときはさすがにショックでした」(俯く)
「やっぱり薬を飲んだ方が良いのでしょうか?」(心配そうな表情)
Dr「さぁ、どうでしょうね。それはあなたが糖尿病治療に何を望むか?によって違うと思います」
ここで医師は「薬を飲む飲まないを決断する主体はあくまで『患者』にあること」を強調しています。

Dr「実際に血糖測定をしてみてどう思いましたか?食後血糖値が200mg/dLを超えたときは食べ過ぎたと思いましたか?」
Pt「いいえ、自分としては注意していたつもりでした」(困った表情)
Dr「もしも、あなたが食事をもっともっと制限できる。それは決して苦痛ではない。もっと努力すれば、きっとA1cを改善できるとお考えなら、薬は要らないと思います」
Dr「でも、もしもあなたが人生をもっと楽しみたい、食事の質を高めたいというお考えなら、薬を飲むことも良い選択だと思いますよ」
ここで医師は、薬を飲むという立場と飲まないという立場、それぞれの正当な理由を公正に患者さんに伝えることで、患者さんに主体的に考えるように促しています。

Pt「実は、私の父も糖尿病で、叔父は血液透析を受けています。だから合併症についてはとても心配しています」
Dr「そうなんですか?それなら薬を飲んでみませんか?」
Pt「お薬を飲み始めたら、糖尿病が良くなって、また薬が不要になるということはあるのでしょうか?」
Dr「それはCase by Caseですが、とても太っている方が大きく減量に成功することで薬が要らなくなることはしばしば経験しています。でもあなたのように痩せ形の方の場合、それは難しいかも知れませんね」
Pt「そうですか。でも、お薬、飲んでみます」(決心した様子)
Dr「分かりました。よく決心して下さいましたね。実は糖尿病のお薬には毎日飲む薬と週1回飲めば良いという薬がありますが、どちらが良いですか?」
Pt「効果は同じなんですか?」
Dr「市販前の調査では同等の効果が確認されています」
Pt「でも週1回の薬って、副作用が強くはないですか?」
Dr「週1回だからと言って副作用が強い訳ではありません」
Pt「どちらが良いのでしょうか?先生、決めていただけますか?」
Dr「毎日が良いか、週1回が良いか、それは医者が決める問題ではなくて、患者さんが決めることなんです。自分で決めるからこそ、その薬は効果を発揮するんですよ。医者に一方的に決めてもらって、受け身的に薬を飲んでいる人はあまり良くならないような印象をもっています」
Dr「つまり、あなたは毎日お薬を飲むから今日1日を頑張れるんですというタイプなのですか?それとも、毎日お薬を飲むことは心理的にとても負担だから、週1回飲めば済むという薬ならとても心理的負担が軽くなりますというタイプなのでしょうか?」
Dr「ご自分で決めて下さい」
 医師はあくまで「患者が自分で決断することが大切」という立場を貫いています。

Pt「はぁ、自分が飲む薬を、自分で決めることで、お薬が効果を発揮するということがあるんですか?」
Dr「もちろんです。自分で決めることで、患者さんが糖尿病治療に主体的に関わる決心が生まれます。だから効果が出るんだと思います」
Pt「分かりました。それでは週1回のお薬をお願いします」(笑顔)

【解説】

昔気質の患者さんの中には「薬は医者が決めるもの、患者は黙って、それに従うべきだ」とお考えの方もおられます。しかし、「自分の治療を自分で決める」ためには、当然のことながら、医師の考え方や薬の作用などをしっかりと理解する必要があるわけです。「Q1:その薬は安全ですか?」「Q2:私にその薬が必要な理由を教えて下さい」「Q3:その他のお薬よりも、その薬が一番私に適しているんですね?」・・・。自己決定するとき、患者さんは無意識のうちに、こうした問いかけをしている筈です。
それに対して、医師は例えばQ1に対して「はい、この薬には重大な副作用はなく、使いやすく、そのバランスの取れた薬理作用から、6〜7割の糖尿病患者さんが服用しています」、Q2に対して「血糖測定の結果から判断して、あなたのヘモグロビンA1cが改善しない理由は主に『食後高血糖』に起因していることが明らかです。この薬は食後血糖値のみを改善する薬なので、あなたに最適です」、Q3に対して「この他にも食後血糖値を改善する薬はありますが、副作用が少ない、1日1回服用で済む、低血糖が起こらないなどの理由で、あなたに最適だと思います」などと答える筈です。
このように、患者中心医療をめざす医師は『自己決定』を尊重せざるを得ませんし、自己決定を行う患者は、治療方針の決定により深くコミットすることになります。

今日のお話、いかがだったでしょうか?
ご年配の患者さんには「薬を決めるのは先生の仕事だから、俺は関係ない」という方もおられますが、そういう方に限って、飲み忘れが多かったり、忙しくて治療を中断してしまったりする方がおられます。
『自己決定』を大切にする医療は医師—患者関係を大切にする医療であると言い換えることができます。良い医師-患者関係がより良い治療結果を生み出すのです。

今日の患者さんとのやりとりや『自己決定』について、ご意見、ご感想があれば、ぜひ気軽にお寄せ下さい。

→ No CommentsTags:

「まじめに服薬しているのに効果が出ずに落ち込んでいる患者さん」を励ます

1月 21st, 2017 · 糖尿病療養指導

糖尿病患者さんが真面目に頑張っているのに、なかなか血糖コントロールが改善せず、落ち込んでいる患者さん、結構いますよね。真面目な方であればあるほど、落ち込んでしまうものです。今回は、そんな患者さんに僕がどんな風に声をかけているのか、書いてみたいと思います。

「なかなかA1cが改善しませんね。なぜ、血糖コントロールが改善しないのか、その理由を一緒に考えてみましょう!
一般原則を言うとこうなります。あなたの食事管理の中に是正すべき問題点があれば、薬を変更したり、増やしたりする前に食事管理を改善することを優先します。

でも、もしもあなたの食事管理にまったく問題がないのにA1c値が改善しないとしたら、それは・・・、あなたに薬を処方している私の責任です。つまり、現在のお薬が、あなたの病態に適していない。だから改善しないのだということになるんですね。

そしたら『こらぁ!いい加減にせぇ!』と、私を叱って下さい。この場合、どんなお薬があなたに最適な薬なのかをもう一度調べ直す必要があります。その一番有効な方法が3日間・7ポイント血糖測定です。3日間・計9食の食事記録と1日7ポイントの血糖測定をしていただきます。

そして、その血糖パターンから【空腹時高血糖型】であれば、空腹時血糖値を改善する薬を増量または追加します。また【食後高血糖型】であれば、主に食後血糖値を改善する薬の中から次に使う薬を選びます。この方法の良いところは、こうして3日間・9食の食事記録と食前・食後の血糖測定をしていただくと、食事が原因で血糖値が改善しないのか、薬があなたの病態に合わないから血糖値が改善しないのか?ということも同時に判断できることです。

どうでしょうか?あなたもチャレンジしてみませんか?」

■解説

筆者の日常診療の様子を紹介させていただきましたが、いかがだったでしょうか?
落ち込んでいる患者さんには多少ユーモアを含む指導をした方が良いのではないかと考えました。
「療養指導は楽しく!」が筆者のモットーです。楽しく対話していくためには、患者さんのライフスタイルや考え方を尊重し、自己決定を共有することを心がけることだと思います。

→ No CommentsTags:

糖尿病に対して良い感情を持つこと

1月 19th, 2017 · 糖尿病療養指導

■糖尿病は「意味の病気」

糖尿病はという病気は「意味」の病気と言い換えることができるのかも知れません。

「糖尿病は贅沢をしてはいけない」「糖尿病になったら美味しいものを食べてはいけない」「糖尿病になったらお酒を飲んではいけない」「糖尿病の人はケーキを食べてはいけない」など、糖尿病に纏わる、もっともらしい誤解はたくさんあります。
糖尿病という病気を、このように意味づけるように強制されたとしたら、果たして患者さんは「頑張ろう!」という気持ちになるでしょうか? なる筈がありませんよね。

■糖尿病治療の極意は“おいしい生活”を続けること

患者さんの糖尿病に対する感情の大切さはいくら強調してもしすぎることはないと思いますが、日本ではあまり強調されていませんね。例えば、僕は糖尿病と初めて診断された方にはいつも「お願いしたいことは、誰よりも“おいしさ”を大切にした食生活をして欲しいことです。まずいものでお腹を満たすことだけはしないで下さい。誰よりも“おいしさ”を大切にしている限り、この病気に負けることは決してありません。

「あなたが美味しいものを、血糖値を上げずに食べるスキルを教えるのが、私の仕事です」と伝え、料理が苦手な独身男性なら、簡単に作ることができる美味しい料理のレシピーを渡したりしています。

食べたり、身体を動かすことを管理する糖尿病は、本を読んで知識を増やしたからと言って良くなるものではありません。楽しくて、自分らしい暮らし、自分らしい食べ方を維持することが何より大切です。僕は、それを糸井重里さんのコピーを真似て、「糖尿病治療の極意は“おいしい生活”を続けることです」と伝えています。

お酒が好きな方には“適量の晩酌”も薦めています。特に満足度の高い夕食を、家族と心から楽しむことはとても大切なことであると考えています。適量のお酒とはビールなら500mL、ワインならグラス2杯、日本酒なら1合程度を指しますが、僕の飲酒指導については、また別の機会に詳しくお話ししたいと思います。

■自分らしい生き方、食べ方に糖尿病治療を合わせること

人にはさまざまな考え方があります。食べたいものをストイックに我慢してでもお薬に頼らないで頑張りたいという方もおられます。素晴らしいことです。しかし、そういう方ばかりではないと思います。これは個人的な意見ですが、「糖尿病に自分の生活を従わせるのではなくって、自分らしい生き方や食べ方に、糖尿病治療を合わせること」の方がはるかに楽しい生活が送れます。近年、糖尿病治療薬は非常に進歩し、患者さんのさまざまな病態やライフスタイル、個人的な嗜好に合わせたテーラーメイド治療が可能な時代となっています。

だから、そういうご希望の皆さんはぜひ自分の希望をしっかりと医師に伝えて、自分らしい暮らしや食事を維持しながら、良好な血糖管理を維持できるような治療を決めてもらって下さい。そのためには「対等で何でも話し合える医師−患者関係」を構築することが必要になります。

皆さん、頑張って下さい。

→ No CommentsTags:

患者さんの『自己決定』を尊重する〜薬嫌いな女性への決定共有アプローチの一例〜

1月 15th, 2017 · 患者中心主義

「自分の飲むお薬を自分で決めることで、お薬が効果を発揮するということがあるんですか?」

ヘモグロビンA1c 7.0%が8ヶ月間続いているけれど、薬を希望しない患者さんとの対話をご紹介します。実際の症例の意味が損なわれない程度に、事実にフィクションを加えて書いています。少し長文となってしまいましたが、このやりとりを読んでいただくことで、患者さんが自分で決定すること(『自己決定』)の重要性をご理解いただけると思います。前回の診察の際、僕は患者さんに自己血糖測定の導入を勧めました。その後、彼女は自己血糖測定器を購入し、血糖測定の結果を持参して、僕の外来を受診されました。この日のヘモグロビンA1c は6.9%でした。
以下、Dr = 私、Pt = 患者さんです。

Dr「この2ヶ月間の生活について教えて下さい」
Pt「食事には注意していましたが、運動が全然できませんでした」
Dr「血糖測定はしてみましたか?」
Pt「はい。食後血糖値が200を大きく超えていました」
Dr「どう思いましたか?」
Pt「やっぱり薬を飲んだ方が良いのでしょうか?」
Dr「さぁ、どうでしょうね。それはあなたが糖尿病治療に何を望むか?によって違うと思います」
Dr「実際に血糖測定をしてみてどう思いましたか?食後血糖値が200を超えていますが、食べ過ぎたと思いますか?」
Pt「自分としては注意していたつもりでした」
Dr「もしも、あなたが食事をもっともっと制限できる。それは決して苦痛ではない。もっと努力すれば、きっとA1cを改善できるとお考えなら、薬は要らないと思います」
Dr「でも、もしもあなたが人生をもっと楽しみたい、食事の質を高めたいというお考えなら、薬を飲むことも良い選択だと思います」
Pt「実は、私の父も糖尿病で、叔父は血液透析を受けています。だから合併症についてはとても心配しています」
Dr「そうなんですか?それなら飲んでみませんか?」
Pt「お薬を飲み始めたら、糖尿病が良くなって、また薬が不要になるということはあるのでしょうか?」
Dr「それはCase by Caseですが、とても太っている方が大きく減量に成功することで薬が要らなくなることはしばしば経験しています。でもあなたのように痩せ形の方の場合、難しいかも知れません」
Pt「そうですか。でも、お薬、飲んでみます」
Dr「分かりました。実は糖尿病のお薬には毎日飲む薬と週1回飲めば良いという薬がありますが、どちらが良いですか?」
Pt「効果は同じなんですか?」
Dr「市販前の調査では同等の効果が確認されています」
Pt「でも週1回の薬って、副作用が強くはないですか?」
Dr「週1回だからと言って副作用が強い訳ではありません」
Pt「どちらが良いのでしょうか?先生、決めていただけますか?」
Dr「毎日が良いか、週1回が良いか、それは医者が決める問題ではなくて、患者さんが決めることなんです。自分で決めるからこそ、その薬は効果を発揮するんですよ。医者に一方的に決めてもらって、受け身的に薬を飲んでいる人はあまり良くならないような印象をもっています」
Dr「つまり、あなたは毎日お薬を飲むから今日1日を頑張れるんですというタイプなのですか?それとも、毎日お薬を飲むことは心理的にとても負担だから、週1回飲めば済むという薬ならとても心理的負担が軽くなりますというタイプなのでしょうか?」
Dr「ご自分で決めて下さい」
Pt「はぁ、自分が飲むお薬を、自分で決めた方がお薬が効くということがあるんですね?」
Dr「もちろんです。自分で決めることで、患者さんが糖尿病治療に主体的に関わる決心が生まれます。だから効果が出るんだと思います」
Pt「分かりました。それでは週1回のお薬をお願いします」

【解説】

昔気質の患者さんの中には「薬は医者が決めるもの、患者は黙って、それに従うべきだ」とお考えの方もおられます。しかし、「自分の治療を自分で決める」ためには、当然のことながら、医師の考え方や薬の作用などをしっかりと理解する必要があるわけです。「Q1:その薬は安全ですか?」「Q2:私にその薬が必要な理由を教えて下さい」「Q3:その他のお薬よりも、その薬が一番私に適しているんですね?」・・・。自己決定するとき、患者さんは無意識のうちに、こうした問いかけをしている筈です。

それに対して医師は、例えばQ1に対して「はい、この薬には重大な副作用はなく、使いやすく、そのバランスの取れた薬理作用から、6〜7割の糖尿病患者さんが服用しています」、Q2に対して「血糖測定の結果から判断して、あなたのヘモグロビンA1cが改善しない理由は主に『食後高血糖』に起因していることが明らかです。この薬は食後血糖値のみを改善する薬なので、あなたに最適です」、Q3に対して「この他にも食後血糖値を改善する薬はありますが、副作用が少ない、1日1回服用で済む、低血糖が起こらないなどの理由で、あなたに最適だと思います」などと答える筈です。

このように、患者中心医療をめざす医師は『自己決定』を尊重せざるを得ませんし、自己決定を行う患者は、治療方針の決定により深くコミットすることになります。

今日のお話、いかがだったでしょうか?ご年配の患者さんには「薬を決めるのは医者の仕事だから、俺は関係がない」という方もおられますが、そういう方に限って、飲み忘れが多かったり、忙しくて治療を中断してしまったりする方がおられます。
『自己決定』を大切にする医療は医師—患者関係を大切にする医療であると言い換えることができます。良い医師-患者関係がより良い治療結果を生み出すのです。

今日の患者さんとのやりとりや『自己決定』について、ご意見、ご感想があれば、ぜひ気軽にお寄せ下さい。

→ No CommentsTags:

糖質制限食ブームの現代に“食べることの意味”を問う良書

12月 6th, 2016 · 医療人類学(病い体験、illness), 糖尿病食事療法

磯野真穂著『なぜふつうに食べられないのか:拒食と過食の文化人類学』

インターネットが普及し、臨床疫学成績や専門家の見方が大きな影響を与えている。磯野真穂氏はその著書『なぜふつうに食べられないのか』の中で、こうした社会が

    「概念」が「体験」を否定する生き方を生み出す危険性

をきわめて的確に論評している。

糖尿病臨床に従事する医師として、私は糖質制限食へ向かう人たちに注目してきた。
その中にはその食事管理法で良い結果を生んだり、自分らしい生き方を見つける人もいるが、そうでない人々もいた。
本書の中の一節を引用したい。

食べ物についての栄養学的な知識の増加に伴い、田辺が吸収させてよいと考えるものはどんどんと少なくなった。彼女にとって食べ物はもはや「食べたい/食べたくない」ではない。それは、彼女の厳格な健康観に基づいて、「吸収させることを許す/許さない」のいずれかで判断されるようになったのである。

磯野真穂氏は科学的な見方だけで、食を論ずることの危険性をきわめて的確に論評している。糖質制限食に向かう当事者にも、血糖管理を優先する立場から糖質制限食を推す医師、そして栄養バランスの立場からそれを強く非難する管理栄養士にも、文化という立場から食を考えることの大切さを強調したい。

最後に本書から以下の2つを引用したい。

ここまで紹介した女性たちの語りを見ると、食べ物と人生の意味が硬直化し、流動性を失っていることがわかる。食べ物や人生に自ら意味を見いだすことをやめ、他人の作った意味にただ従属していることが分かる。

食のハビトゥスを捨てるということは、自らの人生の軌跡の中で作り出してきた食べ物や生き方に関わる意味付けを放棄し、他人の作り出した意味に従属して生きることと同じなのである。<引用終了>

私の糖尿病食事指導の中心テーマはいつも「あなたが自分らしく食べることと糖尿病管理を両立させること」である。しかし、それはとても難しいことであることをあらためて痛感した。

→ No CommentsTags: